「親の介護が始まったけれど、仕事は辞められない」 「会社に介護のことを言い出しづらくて、一人で抱えている」 「気づいたら、もう辞めるしかないと思い詰めていた」

——働きながら介護を担うご家族にとって、「仕事を続けられるかどうか」は、暮らしを左右する大きな不安です。総務省の「令和4年就業構造基本調査」では、2022年10月までの1年間に「介護・看護のため」に前の仕事を辞めた人は約11万人でした(総務省統計局 令和4年就業構造基本調査 結果の概要)。

そんな「介護離職」を防ぐために、2025年4月、育児・介護休業法が改正されました。この記事では、改正で何が変わり、働きながら介護する家族が使える制度がどう広がったのかを、厚生労働省の公式情報をもとに整理します。

この記事でわかること

  • なぜ「仕事と介護の両立支援」が強化されたのか
  • 2025年4月の法改正で会社に義務づけられたこと
  • 家族(働く人)の側から見て、何が使いやすくなったのか
  • 休まずに働き方を変える制度(残業免除・短時間勤務など)
  • 制度を活用するために、まず何をすればいいか

なぜ「両立支援」が強化されたのか?

介護をしながら働く人が増えている一方で、制度を知らないまま仕事を辞める人が年に約11万人いるためです。

働きながら家族の介護を担う人は「ビジネスケアラー」と呼ばれます。総務省「就業構造基本調査(2022年)」では、介護をしている人は629万人で、そのうち仕事をしている人は約365万人でした。厚生労働省の特設サイトは、同じ調査をもとに、雇用されている人のうち55〜59歳の12.3%(10人に1人以上)が介護をしていると紹介しています(厚生労働省 介護休業制度特設サイト)。

「制度があることを知らなかった」「会社に言い出せなかった」という理由で仕事を辞めると、本人の収入や将来の年金が減るだけでなく、介護が終わったあとの再就職の負担も本人が背負うことになります。

ポイント:介護は、いつ終わるか見通しが立ちにくいもの。「辞める」かどうかを決める前に、今の仕事を続けながら介護する方法を確かめておくと、選べる道が増えます。

こうした背景から、2025年4月の改正では、「制度を知らないまま辞めてしまう」事態を防ぐためのしくみが、会社側の義務として強化されました。


2025年4月の改正で、会社に義務づけられたことは?

介護に直面した社員への個別の案内と意向確認、40歳前後での情報提供、相談窓口の設置などの雇用環境整備の3つです。

2025年4月1日から施行された改正では、介護に関して主に次の内容が会社(事業主)に義務づけられました(厚生労働省 法改正のポイント)。

1. 介護に直面した社員への「個別の周知・意向確認」

社員が「家族の介護に直面した」と会社に申し出たとき、会社は、介護休業や両立支援制度の内容、申出先、介護休業給付金のことを、その社員に個別に知らせ、利用の意向を確認しなければならないことになりました。方法は、面談(オンラインを含む)、書面の交付、FAX、電子メールです。

「制度はあるのに案内されない」という状況をなくすための改正です。介護に直面したら、会社に申し出ることで、会社から制度の説明を受けられるしくみになりました。

2. 40歳前後での「情報提供」

多くの人が親の介護に直面し始める年代を見すえ、社員が40歳になる年度(40歳になる誕生日の前日が属する年度)か、40歳の誕生日から1年間のどちらかの時期に、会社が介護休業などの制度情報を提供することも義務づけられました。まだ介護が始まっていなくても、早めに「使える制度」を知っておけるようにする狙いです。

3. 「雇用環境の整備」

会社は、介護と仕事の両立を支えるために、研修の実施・相談窓口の設置・利用事例の提供・利用促進の方針の周知のうち、いずれかの措置を講じなければならなくなりました。つまり、どの会社にも何らかの相談の入り口があるはずだ、ということです。


家族(働く人)の側から見ると、何が使いやすくなった?

介護休暇が入社直後から取れるようになり、介護のためのテレワークを会社が用意する努力義務ができました。

会社の義務が増えたことで、働く家族の側から見ると、使える制度と相談の入り口が広がりました。改正で特に身近になった点を見ていきます。

介護休暇が「勤続6ヶ月未満でも取れる」ように

これまでは、労使協定があれば「勤続6ヶ月未満の社員」を介護休暇の対象から外すことができました。2025年4月の改正でこのしくみが廃止され、働きはじめて間もない人でも介護休暇を取れるようになりました(厚生労働省 法改正のポイント)。転職直後に親の介護が始まった場合にも使えます。

なお、介護休暇そのものの基本は次のとおりです(厚生労働省 介護休暇)。

項目内容
取得できる日数対象家族1人なら年5日、2人以上なら年10日
取得単位1日単位または時間単位
対象家族配偶者(事実婚含む)・父母・子・祖父母・兄弟姉妹・孫・配偶者の父母
使える場面通院の付き添い、ケアマネジャーとの相談など短時間の用務にも

時間単位で取れるので、「平日の午前だけ通院に付き添う」といった使い方ができます。

介護のための「テレワーク」が努力義務に

要介護状態の家族を介護する社員が、テレワーク(在宅勤務など)を選べるようにすることが、会社の努力義務になりました。義務ではなく「努力義務」ですが、「在宅でなら両立できる」という家族にとっては、相談する根拠が一つ増えたことになります。

2025年施行の育児・介護休業法改正の流れを示す図。上段に会社側の3つの義務(個別の周知・意向確認、40歳前後での情報提供、雇用環境の整備)、下段に家族が使いやすくなった2つの権利(介護休暇の要件緩和、介護テレワークの努力義務化)を並べ、相談窓口への申し出が最初の一歩であることを示している。


介護休業と介護休暇のほかに、使える制度はある?

あります。休まずに働き方を変える制度として、残業の免除、時間外労働の制限、深夜業の制限、短時間勤務などの措置が法律で定められています。

仕事と介護の両立に使える主な法定制度は、次のとおりです(厚生労働省 介護休業制度特設サイト)。

制度内容使い方の目安
介護休業要介護状態の家族1人につき通算93日まで、3回まで分割して休める入院・退院の前後や、介護サービスの手配など、まとまった時間が必要なとき
介護休暇年5日(2人以上で年10日)、1日または時間単位で休める通院の付き添い、ケアマネジャーとの面談
所定外労働の制限会社が決めた所定労働時間を超える労働(残業)が免除される。1回につき1か月以上1年以内で、回数の制限はない夕方の決まった時間に帰宅したいとき
時間外労働の制限法定労働時間を超える労働が月24時間・年150時間までに制限される残業をゼロにはできないが減らしたいとき
深夜業の制限午後10時から午前5時の勤務が免除される夜勤のある仕事で、夜間に家を空けられないとき
短時間勤務等の措置会社が短時間勤務・フレックスタイム・時差出勤・介護費用の助成などのいずれかを用意する。利用開始から3年以上の期間で2回以上使える毎日の送り出しや迎えに合わせて働く時間を変えたいとき

所定外労働の制限は、制限を始めたい日の1か月前までに、書面などで会社に請求します(厚生労働省 所定外労働の制限)。短時間勤務等の措置は、どの制度を用意するかを会社が選ぶので、勤め先に何があるかを就業規則や人事に確かめます(厚生労働省 短時間勤務等の措置)。

介護休業給付金はいくら?

介護休業は原則として無給ですが、雇用保険から介護休業給付金が支給されます。支給額は、原則として「休業開始時の賃金日額×支給日数×67%」です。介護休業を始める前の2年間に、賃金の支払の基礎となった日が11日以上ある月が12か月以上あることなどが条件で、申請はハローワークで行います(ハローワーク 介護休業給付の内容及び支給申請手続について)。勤め先を通じて手続きすることが多いので、休業を申し出るときに給付金の手続きも人事に尋ねておきます。

それぞれの制度を日々の時間割にどう組み込むかは、仕事と介護の両立:時間管理と心の余白を保つためにで具体的に紹介しています。あわせて読むと、「制度をどう日々の生活に落とし込むか」までイメージしやすくなります。


制度を活用するために、まず何をすればいい?

会社の相談窓口か人事に「家族の介護に直面した」と伝え、同時に地域包括支援センターにも介護の相談をします。

制度は、申し出たり請求したりして初めて使えるものです。まず取り組みたいのは、次のステップです。

1. 会社の相談窓口・人事に「介護に直面した」と伝える

2025年の改正で、申し出れば会社は制度を個別に案内する義務があります。何から相談すればいいか分からなければ、「介護で両立の相談をしたい」と一言伝えるだけでも構いません。そのとき、次の3点を尋ねておくと、案内を受けたあとの判断がしやすくなります。

  • 介護休業・介護休暇の申し出の方法と、介護休業給付金の手続き
  • 残業の免除や短時間勤務など、休まずに働き方を変える制度の有無
  • テレワークや時差出勤を選べるかどうか

2. 介護の「窓口」を地域包括支援センターに

介護そのものの体制づくり(介護保険の申請、サービス選び)は、地域包括支援センターが入口です。仕事の調整と並行して、介護保険の申請やケアマネジャー探しを早めに進めておくと、休業や働き方の変更をいつまで続けるかの見通しが立てやすくなります。はじめての介護保険の流れは、親の介護が始まったら──はじめての介護保険、申請から費用までやさしく解説で詳しく解説しています。

3. 「自分一人で抱え込まない」体制をつくる

仕事と介護の両立は、制度だけでは支えきれない部分もあります。家族での分担や、休む時間の確保も必要です。気持ちが追い詰められていると感じたら、介護がつらい・もう限界と感じたら──介護疲れセルフチェックとストレスのサイン、心を守るセルフケアもあわせてご覧ください。


一人で「辞めるしかない」と決めてしまう前に

介護離職は、「制度を知らなかった」「相談できなかった」ことが引き金になりがちです。2025年の改正で、会社には介護に直面した社員に制度を届ける責任が、より明確になりました。

それでも、「うちの会社はちゃんと対応してくれるだろうか」「相談しても気まずくならないか」——そんな不安は、なかなか一人では晴らせないものです。

介護そっとねっとには、働きながら親の介護に向き合っているご家族も参加しています。「会社にどう切り出した?」「在宅勤務に変えてもらえた」——そんな経験や悩みを、匿名で分かち合える場所です。制度の手続きは会社や専門窓口に相談しつつ、気持ちの面では、一人で抱え込まずに仲間とつながってみてください。


まとめ

この記事の要点(再掲)

  • 「介護・看護」を理由に前の仕事を辞めた人は、2022年10月までの1年間で約11万人。介護をしながら働く人は約365万人
  • 2025年4月の育児・介護休業法改正で、会社には「介護に直面した社員への個別の周知・意向確認」「40歳前後での情報提供」「雇用環境の整備」が義務づけられた
  • 介護休暇は勤続6ヶ月未満でも取れるようになり、介護のためのテレワークも努力義務に
  • 休む制度(介護休業=通算93日・3回分割・給付金67%、介護休暇=年5日/2人以上で年10日)に加えて、残業の免除・時間外労働の制限・深夜業の制限・短時間勤務などで働き方を変えられる
  • まずは会社の相談窓口に「介護に直面した」と伝え、地域包括支援センターにもつながること

仕事と介護の両立は、制度という土台と、周りに頼ることの両方があってこそ続けられます。

「辞めるしかない」と決める前に、会社の相談窓口と地域包括支援センターに一度相談して、使える制度と介護サービスの見通しを並べてみてください。

特に、きょうだいがいない、または離れて暮らしている場合は、頼れる相手が家族の外に限られる分、これらの制度をより積極的に使う理由になります。一人っ子・遠距離介護、親をどう支える?では、地域包括支援センターやケアマネジャーなど、離れていても使える窓口の具体的な使い方を整理しています。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度の具体的な利用条件や手続きは、勤務先の就業規則や会社の窓口、ハローワーク、地域包括支援センターなどでご確認ください。

参考情報(一次情報)

(確認日:2026年10月13日)

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